さて、後半は、「では、どうして彼は、あなたの前でダメ男になったのか」という点について話していく。
目次
思いやりのかけらもなかったあいつが、私と別れてすぐあとに、結婚した。
これって本当によくあるパターンで、私も何度も経験して、なんとも言えない気持ちになったことがある。
ダメ男と長期間に渡る壊れた恋愛期間を経て、ようやくその洗脳が解けた私たちには、
「どうしてこんな男と一緒にいたのだろう」
「こんな男が幸せになれるわけがない」
と悟り、ダメ男を手放す時がやってくる。
その時になってようやく、私たちはその恋愛関係がとうの昔に破綻していたことを受け入れるのだ。
そして思う。
思い返せばこいつのせいで、どれだけ辛い思いをしてきたのだろう、と。
我慢に我慢を重ねた私たちは悲しみや怒りを抱くことさえも難しくなり、その頃には「無の境地」に達していたりする。何度も心をボコボコに殴られて、麻痺してしまっているのだ。
何が悲しいかも分からない。
あまりにも頻繁にイレギュラーな事件が起きるので、「これって怒るべきなのか?」と自問自答したりもする。
そんな風に様々な過程を経て感情を使い果たし、疲れ果てた私たちはようやく理解するのだ。
もうこの関係を終わらせるほか、幸せになる手立てはないのだ、と。
そしてようやく、別れがやってくる。
後ろ髪を引かれながら、心臓を抉り取られるような苦痛を味わいながら、寂しさや情を飲み込んで別れを告げる時のあの辛さといったらない。
あんなに心をかき乱されるような思い、できれば二度と経験したくないと思う。
そうやって苦しい終わりを乗り越えてしばらく経つと、私たちにも良い変化がやってくる。
執着していた心も解放され、いつしか「どうしてあんな男が好きだったんだろう」という笑い話になるのだ。
ここまで来るのに、とても長い時間がかかるのがダメ男との恋愛関係だ。
だからこそ、その痛みから解放された女の子は、抜群に晴れやかな表情になっていたりする。
まさに「憑き物が落ちる」とはこのことである。
ようやく平和な生活を取り戻した私たち。
前向きに次の恋愛に向かおうとしているくらいのタイミング。
そんなタイミングで、例の事実を風の便りで聞くことになる。
もう未練はない。
むしろ憎しみを通り越して、「気持ち悪い」という感情すら持っていることもある。
それでもその時、私たちの心は大きく揺さぶられる。
頭の中はかき乱され、鼓動が早まる。
彼やその相手のSNSにあわててアクセスする。
そして幸せそうな彼らの写真を見て、襲われる。
「どうして私は選ばれなかったのか」、という気持ちに。
あれだけ長い期間一緒にいて、あれだけ尽くして、あれだけ我慢してきた私は報われず、たった数ヶ月、たった数年一緒にいただけのあの女の子は、彼とすんなり結婚した。
こんなに幸せそうに笑って、「●●くんはいっつも優しくて」って、嘘でしょう……?
私にはあんなにひどいことをした彼が、今隣にいる彼女のことは、大切にしているのが伝わってくる。
嫉妬ではない。
でも、なんだか自分を全否定されたような気持ちになるのだ。
彼は、突然変わったのだろうか。
それとも、彼女がそれほどに良い女だったのだろうか。
どうして私のことを大切にできなかった彼が、あんなに幸せそうに、簡単そうに、誰かを大切にできているのだろう。
こんな奴、幸せになれるはずがないと思っていたのに…。
ようやく傷から解放された私たちはまだどこか孤独で、その孤独な傷にその風の便りは、しみる。
どうして彼は、突然変わったのだろうか。
どうして私の時には、彼を変えることができなかったのだろうか。
どうして私たちはいつも誰かの「ダメ男面」を見せられてしまうのか。
ここまで「ダメ男」について書いてきてこんな結論を書くのは気がひけるが、実は根っからの「ダメ男」っていうのは、ほとんど存在しない。
人間には二面性があるのだ。
私たちがそうであるように、ほとんどの男性は「良い男の面」と「ダメ男の面」を持ち合わせていて、相手によってどちらの面で接するかが変わる。
そしてどちらが本性とか、どちらがフェイクといったこともないのである。
だからあなたと一緒にいる時にあれだけあなたを傷つけたあいつが、次に付き合った彼女の前では別人になったりする。
人はそんなに簡単に変わらない。
彼らは突然変わったのではなく、「良い男の面」を引き出す誰かに出会ったのだ。
思い返してみれば私たちだって、とっても優しいけどいまいち本気になれない男性にはわがまま放題言って傷つけてしまう一方、なぜかダメ男にはこれでもかってくらいに、わがままひとつ言わずに尽くせてしまったりしてきたはずだ。
別にわざと演じているわけではなかったはずだ。
だけどじゃあ、どうして私の前では誰もが「ダメ男」を発症するのだろう。
自らの立場になって考えてみると、どんな相手に「良い恋人の面」を見せるのかのヒントになりそうだ。
一番大切なのは、「相手が幸せになるため」ではなく、「自分が幸せになるため」に動けるかどうか
人は、どんな相手の前で「良い恋人の面」を出し、どんな相手の前の前になると、不治の病:ダメ男を発症するのだろうか。
実は答えは簡単で、あなたが自分のことを幸せにしようと決め、自分の幸せのために物事を判断していける人であれば、彼は「良い恋人の面」を出してくるはずなのだ。
彼らはハンターだ。
逃げてしまいそうな相手に尽くし、手を変え品を変え捕獲するのが好きなのであって、飼いならして言いなりになることを望んでいない。
どんなことをしても離れていかないような相手がほしいわけではないのだ。
彼らが望んでいるのは、きまぐれで、いつのまにかどこかへいってしまいそうな、狩人精神を刺激してくれる、わがままな女の子なのである。
そもそもダメ男の気質を全く持っていない相手であれば話は別だが、「ダメ男」の気質を持った彼らは尽くせば尽くすほどにあなたのことを雑に扱い、安心すればするほど、あなたに興味をしめさなくなる。
だからといってわざとらしく浮気をチラつかせたりするのも逆効果。
なによりそんな寒い小芝居、恋愛のために演じるのはごめんだ。
相手が「ダメ男」を発症せず、あなたを大切にしてくれるようになるたったひとつの方法。
それは、相手から大事にされたいのなら、まずは自分を大切にすることだ。
そしてそれを胸をはって、表現すること。
私は幸せになる権利があり、幸せになるために生きている、と、凛としておくこと。
あなたはただ自分の幸せのために判断し、「私を幸せにできないのなら、あなたなんていらない」という態度でいる必要があるのだ。
これって実は、簡単そうで難しい。
人は、自分のために行動するのが、一番苦手だったりもする。
愛する人のために自己犠牲を働く方がよっぽど幸せで、悲劇のヒロインになれる。
だけど、それでは幸せになれない。
そうすれば、おのずと彼はあなたの好意を惹くに、あなたを幸せにしようと努力をする。
あなたは嬉しい時に笑い、悲しい時に悲しみ、怒る時には怒れば良い。
全ての行動基準を「自分の幸せにするため」に定めることが、相手の良い面を引き出す唯一のコツなのである。
彼のために家事を全部引き受けたり、浮気をしても許したり、冷たくされても涙をこらえることは、彼の愛を引き出す手立てにはならない。
ダメ男を見分けるのは難しい。
そもそも誰もがダメ男の面を持っている。
「この人は良い男か」を見分けようとすると、たいてい失敗してしまう。
だからこそあなたがしなければならないのは、まずは「自分が幸せになる」と強く決意すること。
そして、そのための行動を優先させること。
そうすればあなたと出会った誰かは、あなたの前でダメ男を発症せず、あなたを大切に扱うはず、なのである。
根っからのダメ男なんて、ほとんどいない。
それは実は、あなた自信を大切にすること、なのである。
コラムニスト
yuzuka
恋愛エッセイを中心に書いている作家、コラムニスト。著書に「大丈夫、君は可愛いから。君は絶対、幸せになれるから」(KADOKAWA)「LONELY?ねえ女の子、幸せになってよ」(セブン&アイ出版)がある。書き物以外にもイベント主催や舞台プロデュース、オウンドメディアの編集長など、幅広い分野で活動している。
Twitter:@yuzuka_tecpizza